開発にAIを取り入れるとき、悩ましいのは「どの工程で、誰が、どう使うか」です。bravesoftでは、調査から開発、発信までの進め方を「AI Kit」として整理し、さらに案件全体をナビゲートする社内ツール「braveNavi」を作りました。
実際に開発工数を約34%削減した取り組みや、AIと人の役割分担、生成AI活用を進める中で生まれた新たな課題とその解決方法まで、開発の現場で試行錯誤してきたことを紹介します。
AI Kitは「手順書+テンプレート」。AIに渡して、一声かけるだけ
AI Kitは、仕事の進め方を「番号付きの手順書」と「テンプレート」にまとめたキットです。中には、AIが守るルール、Step 01から始まる手順、報告書や見積書のひな形、抜け漏れを防ぐチェックリストが入っています。
使い方はシンプルで、キットのフォルダを作業場所に置いてAI(Claude Code、Cursorなど)を起動し、「このキットで進めて」と一声かけるだけ。AIが手順に沿ってヒアリングから成果物の作成までを進め、毎回「次にやること」を示すので、エンジニアでなくても進められます。
どのキットにも入れている決まりが、ひとつあります。コミットやリリースのように後戻りしにくい操作は、必ず人が行うこと。AIに任せるのは「進める」ところまでで、「確定する」のは人です。

調査から開発、発信まで。いまある5つのキット
キットは、案件の上流から下流、そして発信までをカバーしています。
- Research & Reporting Kit(調査):Webでの裏取りから、根拠と図解つきの報告書まで
- Estimation & Proposal Kit(見積もり・提案):機能ごとに工数を積み上げ、採算・スケジュール・提案書まで。根拠のない金額は出しません
- Mock Kit(提案モック):要望を伝えるだけで、本物のアプリに近い提案モックを作成
- AI-Driven Foundry(開発・保守):iOS/Android/Flutter/Web/サーバーの作り方を1つの土台に。既存の案件では、そのプロジェクトの作り方に合わせて開発し、仕様書などのドキュメントとの整合性、テスト、セキュリティを14項目でチェックします
- Blog & PR Kit(発信):社内の動きを、週1回・15分で記事に
立ち上がりは白紙からではなく、テンプレートとAIのたたき台から。提案は、デザインがそろう前から動くモックで。キットごとに、仕上がりの形が決まっています。

開発工数は約3割減
「AIで速くなった」と言うのは簡単ですが、数え方がなければ比べられません。そこで、2026年7〜9月に完了した開発タスク9件で、従来の進め方を前提に当社の標準的な見積手法で算出した「想定工数」と、AI Kitを活用して実際にかかった「実工数」を比べました。
9件の合計は、想定124時間に対して実績81.5時間。約34%少なく済みました。チームでは「想定の8割以内で終える」を目標にしていて、9件中8件が達成しています。1件は想定を上回りましたが、その1件も含めた合計での数字です。件数はまだ多くないので、「約3割」と控えめに丸めて表記しています。
なお、これは開発タスクの数字です。調査や見積もり、提案モックづくりの時間は含めていません。

減らせた時間は、お客様のローンチまでのスピードとして還元していきます。
キットがそろって、次に起きた「迷子」
キットが増えるにつれ、新しい悩みが出てきました。「この案件では、いつ、誰が、どのキットを使えばいいのか」が分かりにくくなったのです。
社内の各チームが整えてきたフレームワークも合わせて数えると、工程や開発フェーズ、チェック項目など、覚える名前は56個。導入の方法も、ファイル配布やスクリプト、共有フォルダなど6通りありました。一つひとつの中身はそろっているのに、入口がばらばら。足りないのは中身ではなく「入口」だ、というのが、このときの結論でした。

案件のカーナビ「braveNavi」
そこで作ったのが、案件をナビゲートするシステムです。カーナビと同じで、目的地を入れるとルートが出て、いまどこにいるかが分かり、次にやることを教えてくれます。社内では親しみを込めて「braveNavi」と呼んでいます。
目的地は、案件のゴールを1文で書いたもの。ここだけは妥協しません。道のりは、決める(営業・企画)、書く(要件定義・画面仕様書)、見積もる(見積もり・提案)、作る(設計・開発)、出す(テスト・リリース)、続ける(運用・保守)の6つのステージ。56個あった名前は、この6つにまとめました。細かい名前は、そのステージを開いたときにだけ出てきます。入口も1つにして、更新が全員に届くようにしています。

ステージごとに、ふだんの作業、主な担当、使うキット、そして成果物ごとの品質チェックを決めています。チームの誰が見ても、いまどの区間にいて、次にどのチェックを受けるかが分かります。

作りながら直した、現場の工夫
braveNaviは、最初の版から約2週間で69のバージョンを重ねました。使いながら出てきた声を受けて、直してきたことを紹介します。
既存のキットは、1行も書き換えずに束ねる
braveNaviは、各チームのキットの中身に手を入れていません。採点の基準もテンプレートも、それぞれのチームのものがそのまま正本です。braveNaviは「どの案件で、いつ、どれを使うか」の目次に徹していて、キットを育てるのは、それぞれのチームです。
「今、何をしたらいいか」を1人1行で
試験運用を始めて1週間ほどで出てきたのが、「今何したらいいか分かりづらい」という声でした。そこで、自分の今日・今週やることを期限の近い順に並べ、メンバー全員の「次にやること」も1人1行で出すようにしました。中身は、社内のチャット(Slack)やタスク管理ツール(Backlog)の動きを読み取ったAIが更新します(読み取りのみで、チャットやタスク管理ツールの中身を書き換えることはありません)。
ここで気をつけたのは、AIに勝手に埋めさせないことです。期限が書かれていない作業は「期限未定」のまま、名簿にいない人の作業は「担当未定」にまとめて赤く出します。

赤は「はっきり止まっている」ときだけ
状況は、止まっている(赤)・危ない(黄)・順調(緑)の3色で出します。何でも赤にすると、本当に止まっているものが埋もれてしまうので、赤にするのは、はっきり止まっていると読めるときだけ。各行には、なぜその色なのか、誰が動かすものか、元のスレッドや課題へのリンクも付けています。次のステージに進めるかどうかも、同じ信号で判定します。

お客様の事業を知り、次の一手を提案する
10月には、案件ごとの「ドメイン知識」と「提案ロードマップ」も加わりました。お客様の事業や業界について知っておくと強いことを図解でチームにため、いまの状況から次にご提案したいことを、効果の大きい順に動くイメージ付きで並べます。実際に提案するかどうかを決めるのは人です。

まずは1案件から
最初の版ができた段階で、ダミーの案件を1本通しただけで12件の不具合が見つかりました。実案件なら、もっと出るはずです。そこで一斉に広げるのではなく、2026年9月から1つの案件で試験運用を始め、使いながら直しています。
お客様にとって、何が変わるか
AI KitとbraveNaviで変わったのは、bravesoftの社内の進め方です。お客様には、次の4つの「うれしい」として届くと考えています。

1. 早い:完成形を、提案の段階で確かめられる
- 変わること:提案のときから、動くモックと、機能ごとに工数を積み上げた見積もりをお出しします。AI Kitで減らした開発工数は、ローンチまでのスピードに回します。
- うれしいこと:画面を触りながら社内で話せるので、合意や判断が早く進みます。見積もりが機能ごとに分かれているので、予算に合わせて「どこから作るか」を一緒に決められます。
2. ブレない:先が見えるから、安心して任せられる
- 変わること:最初に案件のゴールを1文で決め、チーム全員が同じ目的地を見て進みます。止まりそうなことは早めに見つけて手を打ち、追加のご要望はいったん見積もりに戻してからご相談します。
- うれしいこと:思わぬ追加費用や遅れにつながりそうなことを、早めに把握して対応できます。次にお客様に決めていただくことも早めにお伝えするので、社内の準備を前もって進められます。
3. チームで支える:同じ説明を、くり返さなくていい
- 変わること:お客様の事業について分かったことは、図にまとめてチームで共有します。成果物は、社内の品質チェックを通してからお届けします。
- うれしいこと:メンバーが増えても替わっても、話が途切れません。同じ説明を何度もしていただく必要がなく、届いたものを安心して確認できます。
4. 提案が届く:作ったあとの「次の一手」まで、一緒に
- 変わること:いまの状況から、次に打つ手を効果の大きい順に、動くイメージ付きでご提案します。
- うれしいこと:次に何をすれば事業が伸びるかを、イメージを見比べながら選べます。ローンチのあとも、相談できる相手がそばにいます。
どれも社内の仕組みで支えるもので、お客様に新しいツールを覚えていただく必要はありません。
これから
braveNaviは、試験運用で出た声をもとに改善を重ね、社内の案件へ順次広げていく予定です。保守・運用で見つかったことを要件定義やレビューの観点に戻し、ためたドメイン知識と提案の記録を次の開発にも生かす。案件を重ねるごとに、チームの「同じ高品質」の水準そのものを上げていくのが目標です。
bravesoftでは、AIを使った開発の進め方を日々見直しています。
アプリやWebサービスの開発について、お気軽にお問い合わせください。
【担当者コメント】
社内には上流から下流まで、得意分野ごとのAI Kitがそろってきました。ただ、キットが増えるほど「いつ、どれを使えばいいのか」が分かりにくくなる。足りないのは中身ではなく入口でした。braveNaviは機能を足すツールではなく、覚えることを減らすツールです。チーム全員が同じ地図を見て、お客様の目標からブレずに進む。誰もが簡単に、同じ高品質を提供できる。その「同じ高品質」を案件を重ねるごとに引き上げ、お客様に寄り添うパートナーであり続けます。

bravesoft株式会社 エンジニアリング2部
モバイルテックリード
永井 涼
※記事中の画面は、デモデータを用いたイメージです。